大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(借チ)1033号 決定 1973年3月06日

申立人

岩永龍美

右代理人弁護士

小坂重吉

増田英男

相手方

森山淳雄

右代理人弁護士

小川恒治

高木肇

主文

1  申立人が、別紙目録(二)記載の建物を取り毀し、同目録(一)記載の土地上に同目録(三)記載の建物を建築することを許可する。

2  申立人は、相手方に対し、金四八万円の支払をせよ。

理由

(申立の要旨)

1  申立外岩永シノは、相手方から昭和二八年六月一日別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を非堅固建物所有の目的、期間二〇年、借地上の建物を増改築するには賃貸人の書面による承諾を要する約定で賃借し、右地上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)を所有していたところ、昭和四五年六月二二日死亡し、申立人は、同人の相続人として、右借地契約上の賃借人の地位を承継し、本件建物の所有権を取得した。地代は、昭和四七年六月一日から3.3平方米当り一ケ月一六〇円に改められ、現在にいたつている。

2  申立人は、本件建物を主文第一項記載の如く全面的に改築することとしたが、相手方の承諾が得られない。

3  よつて、右改築につき、賃貸人の承諾に代る許可の裁判を求める。

(決定理由)

1申立の当否

本件の資料によると、申立の要旨として掲げた前記1、2の事実が認められる。

相手方は、借地権は借地上の建物の朽廃により消滅するところ、本件建物は、既に朽廃したか朽廃に極めて近い状態にあり、このような事情の下においては、朽廃による借地権消滅にかける相手方の利益は保護されて然るべきであり、本件改築がなされても、本件借地権は、本件建物が朽廃すべかりし時に消滅するのであるから、本件改築は許可されるべきでなく、また、本件の如き全面的改築がなされると、本件借地権の存続が強化され、相手方の利益が不当に侵害されることになるので、通常の利用上相当な範囲における修繕に止めるべきであると主張する。

本件の資料によれば、本件建物は老朽化の度がかなり進んでいることは認められるが、現に朽廃していないことはもとより、存続期間の終期である昭和四八年五月三一日までに朽廃するとも認められない。相手方は、借地権は借地上の建物の朽廃により消滅するというが、借地上の建物の朽廃により借地権が消滅するのは、借地契約の期間が、当事者の合意によつて定められたものではなく、借地法等の法律により規制された場合についていわれるのであり、本件借地契約の期間は前認定のように、当事者の合意により昭和二八年六月一日から二〇年と定められているのであるから、本件の場合、朽廃による借地権の消滅ということが考えられるのは、現在の存続期間の満了後、借地契約が法定更新されるか、合意により更新される場合については更新後の期間についての約定がなされない場合ということになる。このような場合を想定すると、本件改築がなされない場合には、本件借地権は朽廃により完全に消滅するので、借地権の消滅、すなわち完全所有権の回復により賃貸人である相手方の得べき利益は、地価及び借地権価格が高額である現状においては相当なものであり、相手方が右利益に期待をかけるのは、賃貸人の個人的立場としては、それなりに理解することはできる。しかし、東京など大都市における宅地需要が著しく大きいのに拘らず、生産することができないという土地の通常の財と異る特殊性及び非宅地の宅地化が左程期待できない等の事情により宅地の供給がこれに伴わず、需給の間に著しい不均衡が見られ、しかも右の事情等が反映して、地価が奔騰ともいうべき異常な高騰を示しているわが国の現状において、このような賃貸人の個人的利益を尊重しなければならないとすると、土地を所有しない借地人としては、住ないし営業の基盤を喪うことになり、由々しい社会問題となる。そこで、借地についていえば、土地所有権を重視すべきかそれとも土地利用権を重視すべきかという二者択一を迫られることになるが、借地法は、土地所有権に制限を加えても土地利用権を優先させるべきとの道を選び、契約自由の原則に制限を加えることにより、借地権存続の強化、土地の合理的利用の促進等を図ることにしたのであるから、賃貸人の個人的利益保護のゆえに、本件改築を許可すべきでないとする主張は、借地法の基本的立場に反する見解であり、採用のかぎりでない。とはいうものの、人間は個人的利益を中心に物事を考えるのが普通であり、そのこと自体を非難することはできないので、賃貸人が通常の人間である場合、右の説明が心からの納得をうることは困難であるかに思われる。賃貸人をして、借地権の消滅に期待をいだかしめるものは何かを考えるに、それは、地価と地代との乖離が極めて大きく、しかもその乖離が年々拡大される傾向にあるという現実であると思う。地価と地代との乖離が縮小すれば、借地権の消滅を期待するという荒廃した心も自らなくなるであろうし、賃貸人借地人間に互に相手の立場を尊重するという本来の人間性も回復されることになると思う。従つて土地利用権を土地所有権に優先させる道を選ぶからには、単に借地人にのみ一方通行権を与えることなく、地価と地代との乖離をなくし、借地権消滅という借地人の不幸を期待するが如き荒廃した心が生れないよう賃貸人の立場についても十分配慮することが必要である。この乖離をなくすには、地代を地価に接近させるか、地価を地代に接近させる以外に方法はないわけであるが、地代発生の源泉は、土地使用により得られる収益に求めるべく、地価に求めるべきではないので地代を地価に接近させることは、収益の伸び率が地価の上昇率にはるかに及ばない現状においては期待できず、地価を地代に接近させることだけが解決の唯一の道である。しかし、土地は生産不可能な財であり、生産可能な財と異なり、需給の相互作用による均衡価格なるものは成立し得ないのに拘らず土地の売買は、現在、生産可能な財と同じく、契約自由の世界に放任されているので、この法制下において地価の高騰を抑止するなど期すべくもなく、地価を地代に接近させるには税法上の特別措置のみでは不十分で、土地の売買という契約自体を私人間の自治に委ねることなく、土地は人間の生活に欠くことのできない公共財である認識に立ち、社会一般の福祉の観点から、売買の要素、すなわち、契約当事者、代金等につき、然るべき法的規制をすることが是非とも必要であると思われる。これは、政治の問題であり、立法者でない裁判所としては如何ともすることができない。賃貸人に対し、無情ともとられるような説明で、相手方の主張を排斥したが、無情ととるならば、それは地価対策が極めて不十分であるがためであり、さりとて借地法の立場からは止むを得ないことである。次に相手方は、朽廃時期が極めて近いことをもつて本件改築を許可すべきでない理由の一つとしているが、これとて、賃貸人の個人的利益の立場に立つ見解で、借地法は、このような賃貸人の個人的利益を犠牲にしても、社会一般の利益という観点から土地利用権を優先させているのであるから、朽廃時期が切迫しているということは、本件改築を許可すべきでないとする理由にはならない。一般的にいつて、建物の老朽化の程度と増改築の許否とは無関係である。増改築の時期は、借地人の主観的事情により決められる問題であり、老朽化の程度により申立の許否を決しなければならないとする理由はない。本件改築を許可する場合、朽廃の時期につき現実的朽廃説を採らず、「朽廃すべかりし時」とする説によるとしても、改築後の建物が存在する場合には、借地権は朽廃によつて将来にわたり消滅するとは限らず、借地権の将来にわたる消滅は、借地法六条により、正当事由の有無によつて決せられることになる。また、本件の如き全面的改築が許可されると、借地権の存続が強化され、賃貸人の利益が不当に侵害されることになるので、通常の修繕に止めるべきであるという相手方の主張が容れられないものであることについては、これまでの説明から明らかであろう。

右のように、本件改築を許可すべきでないとする相手方の主張はいずれも採用しがたく、本件借地契約の残存期間の終期は昭和四八年五月三一日で、間もなく期間満了となるが、相手方は、朽廃による借地権消滅に期待をかけるのみで、更新拒絶の正当事由についてはなんら触れないので、本件借地契約は、期間満了後更新されるものと認むべく、本件の資料によれば、本件改築は、土地の通常の利用上相当であると認められるので、これを許可すべきである。

2附随処分

鑑定委員会は、本件改築により本件借地の効用が増加し、効用増により、借地権価格が現在の価格より大となるので、財産上の給付の根拠は、これを借地権価格の増分に求めるべきであるとし、かつ、借地権価格が増大するについては、近隣の発展についての申立人のこれまでも貢献及び資本投下に負うところもあるので、借地権価格の増分全部を財産上の給付とするのは相当でなく、その一部を財産上の給付とすべきであるとの見解に立ち、借地権価格の増分を次のようにして求める。本件土地は、中央線西荻窪駅南南東約五〇〇メートル、関東バス西荻南二丁目停留所の北北東約二〇〇メートルの位置にあり、都市計画上住居専用地区、第一種高度地区、第三種容積地区の指定を受け、附近一帯は閑静な住宅地で、建築されている住宅の規模は概ね大きいとの現状認識の下に、本件土地の最有効使用は、住宅地としての使用であり、かつ、建築基準法上許容される最大限の床面積の建物の敷地として使用することであるとし、この最有効使用を前提とする価格を、取引事例を参考として、更地価格につき一平方米当り一〇万一、六〇〇円、借地権価格につき一平方米当り六万四、四〇〇円(更地価格の六三%強)と評価し、右評価を基礎として本件借地権の現在の価格及び本件改築許可後の価格を求めるのであるが、右各価格を求めるに当り、効用は、建物の庄面積に比例し、従つて、効用の程度による具体的借地権価格も建物の床面積に比例するとし(同委員会は、かかる表現はしていないが、意見書を読むと、右のように考えているものと思われる。)最有効使用を前提とする借地権価格をK、建築基準法上許容される最大限の延床面積をA、本件建物の床面積をB、改築後の建物の延床面積をCとした場合、現在の借地権価格はK×B/A改築許可後の借地権価格はK×C/Aであるので、本件改築許可による借地権価格の増分は、(K×C/A)−(K×B/A)であるとする。そして、前記の理由により、この借地権価格の増分全部を財産上の給付とするのは相当でないとし、財産上の給付は、この借地権価格の増分に相続税評価基準による底地割合二五%を乗じたものとするのが相当であるとする。

財産上の給付は、非訟の観点から捉えるのが正しいと考える。非訟には多種のものがあり、これを一元的に定義することは困難であるとされているが、借地非訟の場合は、国がある目的を達成するために、私人間の借地契約に介入し、右目的達成に必要な限度において、借地契約を修正、変更することであるとする見解を採るのがよいように思われる。これを増改築許可という非訟についていえば、土地の合理的利用の促進という目的を達成するために、その障碍をなしている増改築制限に関する特約を当該増改築にかぎり排除することであるといえる。この借地非訟の観点からすれば、財産上の給付は、増改築制限に関する特約の排除による当事者間の利益の衡平を中心として考えるべきである。右特約の排除ということは、借地人に解除の不安なく増改築をなしうる権利を付与することであり、従つて、財産上の給付は、右権利付与の対価を中心として考えるべく、この対価を求めるには、右権利の経済価値を評価することとなる。ところで、右権利は、その自体独立して存在するものではなく、借地権という権利に包摂されるものであるので、右権利の経済価値は、借地権の経済価値、すなわち、借地権価格に反映することとなるので、鑑定委員会が、財産上の給付の根拠を本件改築による借地権価格の増分に求めたことは、改正借地法の趣旨にそうものとして高く評価すべきである。

しかしながら、借地権価格を左右する効用の考え方、ひいては借地権価格の増分の求め方については批判せざるを得ないとともに借地権価格の増分の全部を財産上の給付とせずに、その一部を財産上の給付とした点は、理由のないことである。不動産鑑定評価基準は、「不動産の価格は、一般に、(1)その不動産に対して、われわれが認める効用(2)その不動産の相対的稀少性、及び(3)その不動産に対する有効需要の三者の相関結合によつて生ずる不動産の経済価値(交換価値)を、貨幣額をもつて表示したものである。そして、それは基本的には、これら三者を動かす社会的、経済的及び行政的な諸力の相互作用によつて、創造され、維持され、修正され、あるいは破壊される。かくして、この価格は、選択指標としてこれらの諸力に影響を与えると同時に、自らはこれらの諸力の影響のもとにあるという、いわば二重性格をもつものである。」としている。すなわち、効用は、不動産の経済価値を創造、維持、修正、破壊する要素の一つとされているので、効用の変化は、借地権価格に影響を及ぼすことになる。(増改築許可の場合は、相対的稀少性と有効需要とは、増改築の前後により変化はないので、効用の変化のみによる価格の変動を求めることになる。)この効用とはいかなることか。同評価基準が、「土地はそのもつ本来的な力の故に、われわれ人間の生活と活動とに欠くことのできない一般的な基盤である。」といつているように、効用とは、土地が本来的にもつている力との関係において考えられるべきものであり、その力の差異により効用の程度にも差異が生ずる。右の力は、人間の生活と活動の見地から認識されるものであるので、農地の場合には、農作物を成長させる力(肥沃度)が中心に考えられ、宅地の場合には、鑑定委員会のいうように、建物を載せる力(積載力)が中心に考えられることになる。この積載力は、いわば地球の引力のことであるから、肥沃度と異なり、土地によつてその力に差等があるとは考えられず、建築工学の進歩の程度、建築基準行政のあり方、増改築制限に関する特約の如き契約上の制限等により、利用しうる度合は異なることになる。これを本件について見れば、本件改築は、平家建を二階建にし、しかも、床面積を大きくするものであるから、積載力を従来より以上に利用することになり、ここに効用増が図られることになる。この意味において、鑑定委員会が本件建物と改築後の建物の大きさに注目し、効用増を把えたのは正しいといえるが、借地権価格が効用の程度に比例するとした点は、誤りであると思う。

同評価基準が「土地、資本、労働及び経営(組織)の各要素の結合によつて生ずる総収益は、これらの各要素に配分される。したがつて、このような総収益のうち、資本、労働及び経営(組織)に配分される部分以外の部分は、それぞれの配分が正しく行なわれる限り、土地に帰属するものである。」といつているように、土地価格のみならず借地権価格も、土地使用により得られる総収益と生産要素に対する右収益の適正な配分という操作の結果生れるものであり、従つて、積載力を従前以上に利用し、これが土地の効用増につながるとしても、借地権価格は、積載力の利用の程度に比例するものではない。

本件の場合、申立人は、借地上の建物を自己の居住用として使用しており、このことは本件改築後も変りはないので、本件改築により、住の快適性という精神上の利益の増加は認められるにしても、現実の収益はないのであるが、建物は、これを賃貸することにより家賃という収入を得ることが可能であるので、潜在的には収益を生みうる財であり、従つて、借地権価格を収益面から評価する場合には、国民所得統計上用いられる帰属家賃としての収益を求めるのが相当である。

増改築許可の附随処分としての財産上の根拠についての考え方及び給付額算定の方法についての従来の鑑定委員会の意見は区々であり、当裁判所としては、財産上の給付を増改築に因る借地権価格の増分を中心とすべきものと考えるのであるが、借地権価格の増分を求めることは、本件の鑑定委員会の意見にも見られるように、不動産鑑定評価の現状においては困難であるかに見受けられるので、同じような事案には同じような給付額を定めることが、裁判の公平という観点からは、是非とも要請されなければならないので、当裁判所では、増改築の財産上の給付につき、本件の如き全面的改築の場合、更地価格の三%程度とするおよその基準を設けている。この基準は、土地の使用目的を非堅固建物所有から堅固建物所有へ変更するいわゆる条件変更事件が、全面的改築の一種であり、この事件における財産上の給付を更地価格の一〇%程度とするのがこれまでの鑑定委員会の大勢であるので、これとの比較から、およその見当で更地価格の三%程度としているまでのことで、もとより確たる根拠のあるものではない。全面的改築といつても、改築前の建物の設計、規模、陳腐化等の具体的事情及び改築後の建物の設計、規模等の具体的事情の相互の関係により、給付額にも差異があるべきであるとは思うが、不動産鑑定評価の知識及び経験のない裁判官としては、その差異を求める術がない。不動産鑑定評価の理論及び実務の進歩によりその差異が適正につかめれば、財産上の給付の個別化も可能となる。右の次第で、財産上の給付を、鑑定委員会の評価する本件土地の更地価格の約三%に当る四八万円と定める。

相手方は、本件建物の朽廃時期は近い将来であり、従つて、本件借地権は朽廃まで存続するに過ぎないのであるから、借地権価格を評価するには、右のことを考慮に入れるべきであるのに、鑑定委員会は、かかる考慮を払わずに評価しているので、現在の借地権価格についての同委員会の評価は不当であり、また、財産上の給付を定めるに当つては、朽廃にかける相手方の期待利益を考慮することはもとより、本件改築により、借地上の建物の価格は増加し、これがため、将来、買取請求権を行使された場合、相手方としては、建物代金を支払うことができないため、更新拒絶権の行使を断念せざるを得ないことにもなるので、このことも斟酌されるべきであると主張する。借地権の持続期間が確定しうるものであれば、借地権価格は、持続期間に左右されることになるが、借地法上、法定更新、賃貸人の意に反する増改築等が認められている以上、借地権は、特段の事情がないかぎり、半永久的に存続すると見るのが相当であり、従つて、借地権の経済価値も、借地権が半永久的に持続するものとして評価すべく、また、朽廃にかける賃貸人の期待利益を考慮せよということは、朽廃による借地権の消滅、すなわち、完全所有権の回復により相手方が得べき利益の喪失を補償すべきであるということであると思われる。相手方が右の利益を失なうのは、借地法が土地利用権を土地所有権に優先させるべきであるとの基本的姿勢の下に、賃貸人の意に反する増改築を認めたがためである。借地法のこの改正は、憲法二九条二項に基礎を置くもので、公共の福祉の観点からすると宅地所有権に対する新たな制限である。一般に、法律の改正により、既存の財産権が制限を受け、これにより権利者が損失を受けた場合、その損失を誰が補償すべきか、また、補償の内容はいかにあるべきかは、法律自らが定めるべきことで、損失補償につき定めがない以上、権利者は損失を甘受せざるを得ない。借地法は、相手方が主張する如き損失の補償につきなんら規定しないので(当事者間の利益の衡平を図るための財産上の給付が、損失補償を定めたものでないことは、例えば、土地収用法六八条、七二条、八八条の文言と対比すれば明らかであろう。)、借地人である申立人が、右損失を補償する義務もなく、借地法が右のような建て前である以上、損失補償を財産上の給付とするのは、相当でない。借地上の建物の価格が増加し、これがため、更新拒絶権の行使を断念せざる場合があるとしても、右は、要するに、土地所有権に対する新たな制限と同様に考えられるので、これに因る損失は、財産上の給付の上では考慮に入れないのを相当とする。

鑑定委員会の意見によれば、現在の地代は近隣の地代の水準以上であるとのことであるので、地代を改定する要はないと認める。

次に、借地期間についてであるが、増改築許可の裁判は、借地法八条ノ二、二項によれば、「賃貸人ノ承諾ニ代ハル」ものであり、この条文の文言からは、賃貸人の承諾と同一視できるようにも見え、賃貸人の承諾と同一視する見解に立てば、本件の如き全面的改築の場合には、借地法七条に規定する賃貸人の異議権は、本件改築に関する限り、失われることになり、借地期間は法律上、本件建物取り毀しの時から二〇年延長されることになるが、増改築許可の非訟は、前に言つたように、土地の合理的作用を妨げている増改築制限に関する特約を当該増改築に関するかぎり排除することであるので、増改築許可という言葉を使つても、裁判の実質は、右特約の排除であり、このように解することが右の如き特約のない場合との権衡からも相当であるのみならず、許可の裁判により、借地期間が法律上延長されるとする見解をとると、従前の期間満了時における賃貸人の更新拒絶権が正当事由を有している如き事案においては、賃貸人に著しい損害を与えることになり、増改築制限に関する特約の排除により土地の合理的利用が可能となつた上に、更に、右の如き不利益を賃貸人に課す必要は全くないので、許可の裁判を賃貸人の承諾と同一視する見解は採るべきでなく、また、附随処分として期間を延長する必要も、同じく、認められない。このことは、残存期間の長短により異なるところはない。 (小山俊彦)

目録

(一) 借地権の目的たる土地

東京都杉並区西荻南四丁目一九番一

宅地841.42平方米のうち158.04平方米(47.81坪)

(二) 右借地上の現存建物

家屋番号 八六番

木造瓦葺平家建居宅

床面積 登記簿上52.89平方米(一六坪)

現況 60.33平方米(18.25坪)

(三) 改築後の建物

木造二階建居宅

床面積 一階 72.87平方米

二階 52.17平方米

平面図(略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例